大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 昭和59年(行ウ)4号 判決

主文

一  (一)甲事件の訴えのうち、(1)被告徳島市長が被告社団法人徳島新聞社に対し別紙物件目録記載の土地につき売買契約の無効を理由として原状回復を求めることを怠っている事実の違法確認を求める部分、(2)被告社団法人徳島新聞社が徳島市に対し右土地につき別紙登記目録記載の登記の抹消登記手続をすべきことを求める部分、(3)被告社団法人徳島新聞社及び同四国放送株式会社が徳島市に対し別紙物件目録記載の建物を収去して右土地を明け渡すべきことを求める部分並びに(4)被告社団法人徳島新聞社、同山本潤造、同森田茂及び同四国放送株式会社が徳島市に対し金一四億〇四八六万円及びこれに対する昭和五五年一一月七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払うべきことを求める部分、(二)乙事件の訴えのうち、(1)被告四国放送株式会社が徳島市に対し右土地につき別紙登記目録記載の登記の抹消登記手続をすべきことを求める部分並びに(2)被告株式会社阿波銀行が徳島市に対し右建物から退去して右土地を明け渡すべきことを求める部分をいずれも却下する。

二  原告らの甲事件及び乙事件のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

(甲事件関係)

一  請求の趣旨

1 被告徳島市長が被告社団法人徳島新聞社(以下、甲、乙両事件を通じて「被告徳島新聞社」という。)に対し別紙物件目録記載の土地(以下、甲、乙両事件を通じて「本件土地」という。)につき売買契約の無効ないし売買契約条件の違反を理由として原状回復を求め又は買戻権を行使する等してその取戻しをすることを怠っている事実が違反であることを確認する。

2 被告徳島新聞社は徳島市に対し本件土地につき別紙登記目録記載の登記(以下、甲、乙両事件を通じて「本件登記」という。)の抹消登記手続をせよ。

3 被告徳島新聞社及び同四国放送株式会社(以下、甲、乙両事件を通じて「被告四国放送」という。)は徳島市に対し別紙物件目録記載の建物(以下、甲、乙両事件を通じて「本件建物」という。)を収去して本件土地を明け渡せ。

4 被告徳島新聞社、同山本潤造、同森田茂及び同四国放送は徳島市に対しそれぞれ金一四億〇四八六万円及びこれに対する昭和五五年一一月七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5 訴訟費用は被告らの負担とする。

6 第3項及び第4項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

第一次的に

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二次的に

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(乙事件関係)

一  請求の趣旨

1 被告徳島市長が被告徳島新聞社及び同四国放送に対し本件土地につき売買契約条件の違反を理由として原状回復を求め又は買戻権を行使する等してその取戻しをすることを怠っている事実が違法であることを確認する。

2 被告徳島新聞社及び同四国放送は徳島市に対し本件土地につき本件登記の抹消登記手続をせよ。

3 被告徳島新聞社及び同四国放送は徳島市に対し本件建物を収去して本件土地を明け渡せ。

4 被告株式会社阿波銀行(以下、甲、乙両事件を通じて「被告阿波銀行」という。)は徳島市に対し本件建物から退去して本件土地を明け渡せ。

5 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

第一次的に(被告徳島新聞社及び同四国放送の関係でのみ)

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二次的に

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  原告らは徳島市に居住する住民である。

2  被告徳島市長は地方自治法に基づいて徳島市の事務を管理執行する機関である。被告徳島新聞社は「徳島新聞」の発行等の事業を営む団体であり、被告森田茂は、後記本件土地売買契約当時の被告徳島新聞社の代表者である。被告四国放送は一般放送業務等を営む会社である。被告山本潤造は後記本件土地売買契約当時徳島市長の職にあった者である。被告阿波銀行は一般銀行業務を営む会社である。

3  被告徳島市長は昭和五五年一一月六日被告徳島新聞社に対し本件土地を代金一七億六〇四四万七二四一円で売り渡し(以下、甲、乙両事件を通じてこれを「本件売買契約」という。)、本件土地につき本件登記を経由した。

4  しかしながら、本件売買契約は次の事由により無効である。

(一) 随意契約の要件を欠くこと

徳島市が本件土地を売却するには原則として地方自治法第二三四条の定める一般競争入札によらなければならず、随意契約は同法施行令第一六七条の二第一項第二号の要件に該当する事由がある場合にのみすることができるところ、本件売買契約は右要件を充足していない。

被告徳島市長は、買主である被告徳島新聞社が公益社団法人であることが同条第一項第二号にいう「その他の契約で、その性質又は目的が競争入札に適合しないもの」に該当する事由になるとして随意契約により本件売買契約を締結した。しかしながら、被告徳島新聞社は、以下のとおり、公益社団法人として設立許可を受けたことさえ疑わしく、仮に受けたことがあったとしても、すでに公益社団法人としての実体を喪失しており、主務官庁である文化庁から、株式会社等の営利法人に組織変更すべき旨の行政指導を受けている団体である。本件売買契約当時、被告徳島市長、同山本潤造、同徳島新聞社、同森田茂ら関係者はこのことを十分に承知していたものである。

(1) 公益社団法人は民法第三四条の定めるところにより主務官庁の許可を得て始めて設立することができる。

被告徳島新聞社は、初めは株式会社組織で新聞発行事業に当たっていたが、昭和一九年五月一五日に公益社団法人に組織変更したと称している。しかしながら、果たしてその設立許可がされたか否かは不明である。右組織変更があったとされる時期に作成された定款に「徳島新聞の発行及び新聞事業に付帯する事業を為し、以て皇道に則り國論の指導昂揚と國策の浸透推進に当り公益たる新聞の國家的使命達成を目的とする。」との定めがあるところからすると、第二次世界大戦の戦時下という特殊な状況のもとで、報道機関に対する国の支配を容易にするため、その組織が変えられたことも考えられないではない。しかし、ほどなく、終戦を迎え、憲法で戦争を放棄した以上、もはや戦争遂行のための国策として行われた右組織変更はその目的を失ったものであり、民法第六八条第一項第二号に規定する解散事由が生じたというべきである。

(2) 現在の被告徳島新聞社の定款には「日刊徳島新聞の発行並びに新聞事業に付帯する業務を行い、公益を重んじ営利を目的としない。」とあるが、その事業の実態は、株式会社組織によって新聞発行事業を営んでいる他の一般の新聞社と同様、新聞発行、印刷、出版その他の営利事業を行い、その発行する新聞の紙面に占める広告の掲載割合は他の商業新聞より高率を占め、事業収益は巨額に上り、十数社の営利企業を子会社としてその傘下に収め、いわゆる独占企業と同様のコンツェルンを形成しているのであって、「営利を目的としない」などとは到底いえない状態である。

(3) 法人税法には、公益法人の事業所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得及び清算所得については法人税を課さない旨の定め(第七条)が置かれているが、被告徳島新聞社はその事業収益を右にいう収益事業による所得として申告し納税している。つまり、被告徳島新聞社には非課税となる本体的な事業がなく、営利事業、収益事業を専らにしているのであるから、同被告が民法第三四条の要件を充たす団体であるとは到底いえない。

被告徳島市長は、随意契約によったことのその他の事由として、契約には転売禁止並びに新聞放送会館の建設用地として使用するとの用途指定の特約を付したことを挙げるが、後記のとおり、被告徳島新聞社は、本件売買契約成立後間もなく、本件土地を被告四国放送に転売したこと、本件土地上に新聞放送会館の建物(本件建物)を完成させるのとほぼ同じ時期の昭和六〇年三月ころ、右建物に株式会社徳島電子計算センター、株式会社ニュートクシマ、被告阿波銀行を入居させ、これを世間一般にいう「貸しビル」と変わらない状態にしたことから推して、契約当事者間では、当初から右特約が守られないことが了解されており、単に随意契約によることの口実として特約が利用されたものに過ぎない。

ほかに、本件売買契約については前記「その他の契約で、その性質又は目的が競争入札に適合しないもの」に該当すると認めるべき理由はない。

以上のとおり、本件売買契約は地方自治法第二三四条第二項及び同法施行令第一六七条の二第一項第二号に違反する違法な契約であって効力を生じないことは明らかである。

(二) 売買価格が著しく低廉であること

本件土地の売買価格は関係者の通謀により著しく低い金額とされた。すなわち、本件土地の近傍には、本件土地と同程度の諸条件下にある土地についてその売買価格を坪当たり一八〇万円ないし二二〇万円とした売買実例があるのに、それらの価格はコマーシャルベースの地価であるとして意図的にこれが排除され、本件土地については坪当たり約一〇〇万円という低い価格が設定された。これにより徳島市は実質一四億〇四八六万円の損害を被ったのであり、被告徳島市長がその裁量権を濫用ないし逸脱して右価格の決定をしたことは明らかである。

被告徳島市長は、随意契約によったことの理由として挙げた事情と同じく、買主が公益法人であること、転売禁止特約が付されること、新聞放送会館の建設という用途指定がされることを本件土地が通常の価格より低い価格で売買されたことの理由としているが、前記のとおり、被告徳島新聞社は到底公益法人であるとはいえず、契約当事者間では右転売禁止特約が守られないことは予め了解済みのことであり、これらの事情は単に価格を低くするための口実として利用されたに過ぎない。

(三) 売買契約が公序良俗に違反すること

本件売買契約は本件土地上には新聞放送会館という公共的な施設を建設するという名目で締結され、しかも買主である被告徳島新聞社が公益法人であるという理由で本件土地の売買価格は極めて低い金額とされた。

しかしながら、被告徳島新聞社は、前記のとおり、公益法人の実体を有していないし、転売禁止の特約に反して、契約後間もない昭和五六年三月二七日本件土地の二分の一の持分が被告四国放送に売り渡され、両者はこれを秘匿するためにことさらその移転登記手続をせず、被告山本潤造においても右転売の事実を知りながら、かえって、これが社会問題化しないように秘匿し、放任してきた。このように、本件売買契約は当初から公益法人への土地払下げに藉口して被告四国放送に本件土地を安価に取得させることを意図したものであり、被告山本潤造、同森田茂を含む関係者の通謀により、刑法第二四七条の背任罪に該当すると疑われるところを敢えてしたものであることが推認できる状況にある。

そうだとすると、本件売買契約は公序良俗に違反するといわなくてはならない。

以上の次第であるから、本件土地はいまなお徳島市の所有であり、被告徳島市長は被告徳島新聞社に対し本件土地につき原状回復を求めるべきであるのに、これを怠っている。

5  被告徳島新聞社の債務不履行

(一) 本件売買契約には、契約締結の日(昭和五五年一一月六日)から一〇年間、本件土地について「売買、贈与、交換、出資等による所有権の移転をし、又は合併をしてはならない」との転売禁止特約(契約条項の第一一条)、本件土地はその上に新聞放送会館を建設するために使用する旨の用途指定特約(同第八条)、買主である被告徳島新聞社は昭和五九年五月六日までに必要な工事を完了し、指定用途に供さなければならないこと、ただし、経済状態の変動又は被告徳島新聞社の不可抗力により右期日までに工事が完了しないときは、予め徳島市の承認を得るものとする旨の使用開始時限特約(同第九条)が付され、被告徳島新聞社が右各特約に違反したときは、徳島市は本件土地を買い戻すことができる旨の特約(同第一三条)が付されていた。

(二) 被告徳島新聞社は昭和五六年三月二七日右転売禁止特約に違反して本件土地の二分の一の持分を被告四国放送に代金八億九三六二万九〇〇〇円で転売した。このことは被告四国放送の有価証券報告書の記載や、同被告が本件土地の固定資産税、都市計画税の二分の一を負担していることによっても明らかである。

また、契約では、被告徳島新聞社は、売主である徳島市の事前の書面による承諾を得なければ本件土地について用途変更をしてはならないことになっているのに、右事前の承諾なしに、本件土地に新聞放送会館の建物(本件建物)が完成するのとほぼ同時の、昭和六〇年三月ころ株式会社徳島電子計算センター、株式会社ニュートクシマに本件建物の一部を貸与した。のみならず、本件建物に密着させて別棟の銀行店舗専用の建物を建設して被告阿波銀行に賃貸して、本件建物を世間一般にいう「貸ビル」と変わらない状態にしてしまった。もっとも、右別棟は被告四国放送が建てて、被告阿波銀行に賃貸したことになっているが、これによって被告徳島新聞社の責任が左右されるものではない。これらの会社、銀行はいずれも営利を目的とするものであって、新聞放送事業とは関連性を有しないものであるから、右用途変更に当ることは明らかである。

被告徳島新聞社は、契約上、指定された期日より遙かに遅れた昭和六〇年二月二〇日ころになってようやく新聞放送会館を完成させ、同月二一日所有権保存登記をしているが、前記契約条項第九条但書にあるような事情も発生していないし、契約所定の手続も践んでいない。

(三) そうだとすると、徳島市は前記契約条項に定める買戻請求権を取得したことになるのみならず、契約条件違反を理由に契約を解除することもできるわけである。したがって、被告徳島市長は、右買戻権等を行使して本件土地を取り戻すべきであるのに、これを怠っている。

6  徳島市は本件売買契約によって本件土地が正常な取引価格で売買された場合との差額に相当する、少なくとも一四億〇四八六万円相当の損害を被ったところ、被告徳島新聞社、同山本潤造、同森田茂及び同四国放送は、前記のとおり、通謀のうえ、本件売買契約をすることによって徳島市に対して右損害を被らせたものであるから、それぞれこれを賠償する義務がある。

7  原告らは、地方自治法第二四二条第一項の規定により、甲事件について、昭和五九年七月二五日徳島市監査委員に対し監査請求をしたところ、同監査委員は同年八月三一日、請求は同条二項に定める期限の後にされたものであるから不適法であるとしてこれを却下する旨の決定をし、そのころ原告らにその通知をした。又、乙事件について、昭和六一年一一月一八日同様の監査請求をしたところ、監査委員は昭和六二年一月一四日、その一部を同様の理由で却下し、残余についてはこれを棄却する旨の決定をし、そのころ原告らにその通知をした。

しかしながら、監査委員が原告らの右各請求が法定の期限経過後にされたものであると判断したのは誤りである。本件売買契約は、被告徳島新聞社に対して、更に同四国放送に対して極端に安価で本件土地を払い下げるために公益法人への払下げを装って締結されたものであり、被告徳島市長、同山本潤造、同徳島新聞社、同四国放送及び同森田茂ら関係者の通謀による、転売禁止特約や用途指定特約などの制限条項を巧みに利用した継続的な背任行為、不法行為を構成するものである。関係者の意図は、被告四国放送への転売による共有持分移転登記がされていないことに示されるとおり、一般住民にはこれを窺い知ることができなかったのみでなく、当初の売買契約によって不法行為は終了せず、関係者は、右さまざまな制限付きであることに藉口して安価で土地売買をしたあとも、共謀のうえ、法を潜脱して、転売や用途の制限条項を無意味化する行為を重ね、よって、現に徳島市民の財産を違法に侵害しているとすらいうことができる。そうだとすると、本件売買契約が無効であることを前提とする原告らの監査請求は売買契約締結日から一年を経過してされたものであっても、地方自治法第二四二条第二項の「正当な理由」があるし、その余の点についての監査請求が右期間制限に抵触しないことは明らかである。

よって、原告らは、地方自治法第二四二条の二に基づき、甲事件については、被告徳島市長が被告徳島新聞社に対し本件土地につき売買契約の無効ないし売買契約条件の違反を理由として原状回復を求め又は買戻権を行使する等してこれを取り戻すことを怠っている事実が違法であることの確認を、徳島市に代位して、所有権に基づき、または本訴状をもって買戻権を行使し、被告徳島新聞社が徳島市に対し本件土地につき本件登記の抹消登記手続をすべきこと、被告徳島新聞社及び同四国放送が徳島市に対し本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきこと、本件売買契約をしたことが違法であっても契約自体は有効であるとすれば、徳島市に代位して、被告徳島新聞社、同山本潤造、同森田茂及び同四国放送が徳島市に対し前記損害金一四億〇四八六万円及びこれに対する違法行為である売買契約の日の翌日である昭和五五年一一月七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきことを、乙事件について、被告徳島市長が被告四国放送に対し本件土地につき売買契約条件の違反を理由として原状回復を求め又は買戻権を行使する等してその取戻しをすることを怠っている事実が違法であることの確認を、本訴状をもって徳島市に代位して買戻権を行使し、被告四国放送が徳島市に対し本件土地につき本件登記の抹消登記手続をすべきこと、(被告徳島新聞社及び)被告四国放送が徳島市に対し本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきこと、被告阿波銀行が徳島市に対し本件建物から退去して本件土地を明け渡すべきことを、それぞれ求める。

二  被告らの答弁

(甲事件についての被告らの本案前の主張)

本件訴えは地方自治法第二四二条の二第一項による住民訴訟として提起されたものであり、その請求は被告徳島市長が昭和五五年一一月六日にした本件売買契約に伴う違法を根拠とするものである。

同法第二四二条第一項の規定による住民監査請求は、同条第二項本文の規定により、当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したときはこれをすることができないとされている。ところが、原告らが甲事件の関係での監査請求をしたのは、前記本件売買契約成立の日である昭和五五年一一月六日から約三年八か月経過した昭和五九年七月二五日のことである。また、同条第二項但書にいう正当な理由とは、当該行為が極めて秘密裡に行われ、一年を経過した後に初めて明るみに出た場合や、天災地変等による交通途絶により請求期間を徒過した場合を指すものである。被告徳島市長がした本件土地の売却については、予め昭和五五年七月以降において徳島市議会の議決を経たうえでの行為であったことに鑑みれば、原告らが右行為についての原則的監査請求期間である一年を過ぎてなお二年八か月を徒過した後に監査請求をしたことにつき正当な理由があるとはいえない。

したがって、原告らがした監査請求はそれ自体不適法なものであって、監査委員がこれを却下したのは正当であり、本件訴えは適法な監査請求を経ないで提起したものであるから不適法である。

(乙事件についての被告徳島新聞社及び同四国放送の本案前の主張)

乙事件は甲事件との関係で地方自治法第二四二条の二第四項にいう「同一の請求」に該当するものであるから、新たに提起された乙事件の訴えは不適法として却下すべきである。また、乙事件の訴えのうち原告圃山靖助に関する分は甲事件との関係で民事訴訟法第二三一条所定の二重起訴禁止の定めにも違反し、この点からも不適法として却下を免れない。

乙事件の請求のうち、被告徳島新聞社及び同四国放送に対し登記抹消及び土地明渡しを求める部分は、被告徳島新聞社が本件売買契約に付された条件に違反して本件土地を使用し若しくは処分したとして、被告徳島市長において買戻権を行使しないことが違法であることを理由として地方自治法第二四二条の二第一項第三号による住民訴訟上の請求に付帯して提起されているものであるが、かかる請求は、右住民訴訟上の請求が容認され被告徳島市長により、被告徳島新聞社に対する買戻権が現に行使されたのちに初めて発生する権利関係であるから、未だ右買戻権が行使されるに至っていない現時点においてはかかる原状回復ないし妨害排除の請求権は発生するに由なく、これについての訴えは同条第一項第四号によるものとして提起する余地はなく、不適法といわなければならない。

(請求原因事実に対する認否)

1 請求原因第1ないし第3項の事実はいずれも認める。

2 同第4項のうち、

(一)の随意契約の要件を欠くとの主張は争う。

被告徳島新聞社は民法第三四条に基づき昭和一九年五月一五日新聞発行事業を所掌していた当時の主務官庁(内務大臣であったと考えられる。)の設立許可を得て設立されたものであり、公益法人である。

(二)の売買価格が著しく低廉であるとの主張に関する事実は否認する。

(三)の売買契約が公序良俗に違反するとの主張に関する事実は否認する。

3 同第5項のうち、

(一)の事実は認める。

(二)の転売の事実は否認する。

被告四国放送の有価証券報告書中には、同被告が昭和五六年三月三〇日、本件土地の二分の一の持分を取得したかのように解される記載があることは事実である。しかしながら、これは、被告四国放送が被告徳島新聞社との間で本件土地の二分の一の持分につき売買予約をし、将来成立する売買の代金相当額を売買予約保証金として支払い、かつ賃貸借契約を締結して、その使用、収益権を確保したという実態に着目して、経理担当者が、法律的見地を離れ、会計処理上の措置として本件土地の二分の一の持分につき土地勘定科目に所定の記載をしたものであり、右法的実態に合致するものではない。

仮に右の法律関係が売買契約の成立としての法的評価を受ける余地があるとしても、本件売買契約には、用途指定として、新聞放送会館の建設用地として用いるとの条項が含まれるが、右にいう放送とは被告四国放送が行う放送事業をいうことは契約成立の事情から明らかであって、契約に定める転売禁止の趣旨は本件土地を買い受けた後に差益を得る目的で指定用途以外の目的に供されるおそれのある第三者に対して譲渡することを禁ずることにあるのであるから、完成した新聞放送会館の建物(本件建物)を区分所有する被告徳島新聞社と同四国放送の敷地についての占有権原を法律的に明確にするために本件土地の二分の一の持分を譲渡する方法を採ったとしても、契約の転売禁止の条項には違背しない。

また、被告徳島新聞社は被告四国放送から本件土地の固定資産税額及び都市計画税額の二分の一に相当する額の金員の支払いを受けているが、これは実質的には賃料の一部であって、被告四国放送が本件土地を賃借していることと矛盾しない。

(三)の事実は否認する。

4 同第6項の事実は否認する。

5 同第7項のうち、原告らによる住民監査請求及びこれに対する監査委員による決定についての事実は認めるが、その余の主張は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一  被告らの本案前の主張についての判断

一  甲事件関係

1  原告らが、地方自治法第二四二条第一項の規定により、甲事件について、昭和五九年七月二五日徳島市監査委員に対し監査請求をしたところ、同監査委員は同年八月三一日、請求は同条第二項に定める期限の後にされたものであるから不適法であるとしてこれを却下する旨の決定をし、そのころ原告らにその通知をしたことは当事者間に争いがない。

2  〈証拠〉を併せれば、右監査委員の決定においては、監査請求の期限を本件売買契約成立の日から計算したものと認められる。しかしながら、甲事件の訴えのうち、被告徳島市長が被告徳島新聞社に対し売買契約条件の違反を理由として買戻権を行使する等して本件土地を取り戻すことを怠っている事実が違法であることの確認を求める部分についての請求は、本件売買契約成立後に買主である被告徳島新聞社について契約違反があり契約上売主に留保されていた買戻権若しくは契約解除権が発生したのに、被告徳島市長においてこれを行使しないのは市長の職責に反して本件土地の管理を怠るものであるというのであるから、これに関する住民監査請求の期間を本件売買契約成立の日から計算するのは誤りである。したがって、右請求に関する限り、徳島市監査委員の決定は不適法というべきであり、原告らは改めて監査請求に対する適法な決定を得なくとも訴えを提起できると解するのが相当である。したがって、甲事件の訴えのうち、右請求についての被告らの本案前の主張は理由がない(もっとも、本件について中間判決の言渡しがあった後の最高裁判所昭和六二年二月二〇日第二小法廷判決・民集第四一巻第一号一二二頁に示された見解に従えば、右請求についての住民監査請求の期限は右買戻権等の発生原因となった行為のあった日又は終わった日を基準として計算されるところ、原告ら主張の転売禁止特約違反事由の発生の日である昭和五六年三月二七日から前記監査請求の日までには既に一年以上が経過しており、右請求についての住民監査請求はこの点において期限経過後にされたものとする余地があったものと考えられる。しかしながら、本件においては、中間判決の段階ではこの点が直接の争点とされていなかったため、中間判決はこの点についてまでの審究をしておらず、甲事件の訴えのうち、右請求についての被告らの本案前の主張は理由がないものとしたのである。そこで、本判決では、最高裁判所の右判決に示された見解とは別に、前述のとおり、中間判決の判断を踏まえて論を進めることとする。)。

3  甲事件の訴えのうち、被告徳島市長が被告徳島新聞社に対し本件土地につき売買契約の無効を理由として原状回復を求めることを怠っている事実の違法確認を求める部分は、既に中間判決の理由中に示されているとおり、昭和五五年一一月六日に締結された本件売買契約に存する瑕疵若しくは売買をしたこと自体を請求の内容とするものであって、原告らが監査請求をしたのは契約のときから既に一年を経過した昭和五九年七月二五日のことであり、右請求に関する部分の訴えは適法な住民監査請求を経ていないことになり、不適法な訴えとして却下するほかはない。

原告らは、本件売買契約は、被告徳島市長、同山本潤造、同徳島新聞社、同四国放送及び同森田茂ら関係者によって、転売禁止特約や用途指定などの制限条項を利用してされた継続的な背任行為、不法行為であって、一般住民には転売等の事実が発覚するまで関係者の意図を窺い知ることができなかったから、原告らには地方自治法第二四二条第二項にいう「正当な理由」があると主張するけれども、後記認定の本件売買契約成立に至るまでの経過に照らすと、本件売買契約を原告ら主張のようなものとみることはできず、ほかに住民監査請求が法定の期限後にされたことにつき原告らに「正当な理由」があると認めるに足る証拠はない。

4  甲事件の訴えのうち、売買契約の無効を理由として、被告徳島新聞社に対し、徳島市に対して本件土地につき本件登記の抹消登記手続を求める部分並びに被告徳島新聞社及び同四国放送に対し、徳島市に対して本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきことを求める部分も、前同一の理由により、不適法な訴えであり却下を免れない。

5  甲事件の訴えのうち、被告徳島新聞社、同山本潤造、同森田茂及び同四国放送に対し、徳島市に対して金一四億〇四八六万円及びこれに対する昭和五五年一一月七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払うべきことを求める部分もまた、売買に存する瑕疵若しくは売買をしたこと自体を請求の内容とするものと解するほかないから、これについての住民監査請求は本件売買契約の日から一年内にされなければならず、右請求に関する部分の訴えはこの要件を満たしていないことは前述したと同様であり、不適法な訴えというべきである。

6  甲事件の訴えのうち、売買契約条件の違反を理由として、被告徳島新聞社に対し本件土地につき本件登記の抹消登記手続を求め、被告徳島新聞社及び被告四国放送に対し本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきことを求める部分については、徳島市が原告ら主張の買戻権等を行使した旨の事実主張はないので、右請求は原告らにおいてこれを代位行使したことを前提とするものと解するほかないが、住民が地方公共団体の有する契約解除権、買戻請求権等の形成権を代位行使することは元来住民訴訟の予定するところではなく、住民は単にその不行使の違法確認を求めることができるに過ぎないと解される。そうすると、右各請求はそれ自体本来的に法律上不可能なことを求めるものであって、この部分の訴えは不適法というほかない。

二  乙事件関係

1  地方自治法第二四二条の二第四項は、既に同条第一項の規定による訴訟が係属している請求について、他の住民はさらに訴えを提起することはできないとしており、民事訴訟法第二三一条も二重起訴を禁じているところである。しかしながら、当事者の訴訟行為はこれをできるだけ合理的に解釈するが相当である。そうすると、乙事件の原告圃山靖助に関する請求のうち、形式上、甲事件の請求と重複するようにみえる部分は同原告において重ねてこれを提起する趣旨ではなく、この部分はもっぱら原告八木正行にのみ関するものであると解することができるし、また原告八木正行に関する請求のうち甲事件の請求と同一の部分はこれを地方自治法第二四二条の二第四項、行政事件訴訟法第四三条、第二条、第七条、民事訴訟法第七五条による共同訴訟参加の申立てと解することが当事者の意思に合致するものと考えられるので、敢えてこれを不適法な訴えとして却下するには当らない。

2  そして、乙事件の訴えのうち、右以外の、被告徳島市長が被告四国放送に対し本件土地につき売買契約条件の違反を理由として原状回復を求め又は買戻権を行使する等してその取戻しをすることを怠っている事実の違法確認を求める部分、被告四国放送に対し徳島市に対して本件土地につき本件登記の抹消登記手続を求める部分並びに被告阿波銀行に対し徳島市に対して本件建物から退去して本件土地を明け渡すべきことを求める部分に関する限り、訴えは前記いずれの規定との関係でも甲事件との間に二重起訴の関係には立たないものというべきである。

3  ところで、これらの訴えのうち、被告徳島市長が被告四国放送に対し本件土地につき売買契約条件の違反を理由として原状回復を求め又は買戻権を行使する等してその取戻しをすることを怠っている事実の違法確認を求める部分についてはこれを適法な訴えということができるが、その余の部分についてはいずれもこれを不適法として却下すべきであることは甲事件について前述したとおりである。

第二  前記適法とされた部分の訴えの本案についての判断

一  請求原因第1項(原告らが徳島市に居住する住民であること)、同第2項(被告徳島市長が地方自治法に基づいて徳島市の事務を管理執行する機関であること、被告徳島新聞社が「徳島新聞」の発行等の事業を営む団体であり、被告森田茂が、本件売買契約当時の被告徳島新聞社の代表者であったこと、被告四国放送が一般放送業務等を営む会社であること、被告山本潤造が本件売買契約当時徳島市長の職にあった者であること、被告阿波銀行が一般銀行業務を営む会社であること)及び同第3項(被告徳島市長が被告徳島新聞社との間で本件売買契約をしたこと)の各事実、本件売買契約には、(1)契約時の昭和五五年一一月六日から一〇年間、本件土地について売買、贈与、交換、出資等による所有権の移転をし、又は合併をしてはならない旨の転売禁止特約(契約条項第一一条)、(2)本件土地はその上に新聞放送会館を建設するために用いる旨の用途指定特約(同第八条)、(3)買主である被告徳島新聞社は昭和五九年五月六日までに必要な工事を完了し、指定用途に供されなければならないこと、但し、経済状態の変動又は被告徳島新聞社の不可抗力により右期日までに工事が完了しないときは、予め徳島市の承認を得るものとする旨の使用開始期限特約(同第九条)が付され、併せて被告徳島新聞社が右特約に違反したときは、徳島市は本件土地を買い戻すことができる旨の特約が付されていたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  本件売買契約をめぐる一連の経過

〈証拠〉を総合すると、次の各事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

1  被告徳島新聞社と同四国放送は、かつて、徳島市幸町に被告徳島新聞社の所有地に一部借地を加えた土地上に「徳島新聞放送会館」という名称の社屋(地上四階地下一階延べ二七〇〇坪)を共同所有していたが、被告徳島新聞社では、昭和五〇年以来、新聞制作にコンピュータを導入することを検討中であり、被告四国放送においても右社屋の共用について何かと手狭に感じており、ゆとりのある建物を欲していた。しかし、隣地を取得できる見込がなく、同じ場所で増築により建物の床面積を増やすことは無理であった。そこで、双方の代表者は、徳島市内にあった専売公社田宮工場が移転となり、その跡地の処分が未定であることを知り、昭和五三年春ころ同公社に跡地取得の希望を伝え、交渉を始めた。ところが、その年の秋に入って、徳島県知事及び徳島市長が被告徳島新聞社を訪れ、専売公社の跡地には県立高校を建てたいので、用地取得の希望は撤回してほしい旨を申し入れた。たまたま、当時本件土地上にあった徳島市立のプールが設置後二〇年を経て施設の老朽化も激しいところから、徳島市は、その跡地(本件土地)の処分と別の場所でのプールの新設を計画中であり、本件土地については商業地域にあって格別の法的規制もないことから高価格での売却が予想され、プール跡地の処分問題は市当局の懸案であるだけでなく、昭和五四年一二月一一日の新聞報道を始め、世間一般にもその成り行きが取り沙汰されていた。右申入れを受けた両被告は、右プール跡地に関する事情を予め承知していたので、これを専売公社の工場跡地問題と関連させることを考え、徳島市に対し、工場跡地のことは了承するが、代わりにプール跡地を譲ってほしい旨の逆提案をした。当時、徳島市には当面プール跡地に施設を設置する計画はなかったが、本件土地は公共用地であり、市街地の適切な形成という公益上の必要もあったことから、相手方を慎重に選んだうえで売却したい方針を立てていた。検討の結果、徳島市は、昭和五五年夏に至り、本件土地を右両被告に売却してもよいとの判断に達したが、買受名義人は被告徳島新聞社のみとするのが望ましいとして、その旨を両被告に伝えた。そこで、被告徳島新聞社は単独名義で徳島市に対し利用計画書を添えて、買受申請書を提出し、本件土地の買受申出をした。

2  本件土地の処分案件は昭和五五年九月の徳島市議会本会議で審議され、その席上、一部の議員から、本件土地と同程度の条件の土地で三・三平方メートル当り一八〇万円ないし一九〇万円で取引きされた実例があるのに、本件土地の処分予定価格である三・三平方メートル当り一〇〇万一七八三円は少し安すぎるのではないか、売買契約を随意契約によることにしたのはなぜか、買受人には被告徳島新聞社のほか実質的に被告四国放送も含まれているのではないかなどの点について質問があったが、市当局は、本件土地は公共用地であるからコマーシャルベースで決定される個人所有地の売買事例はその売却価格決定の参考にならない、本件売買契約ではプール施設の取壊しが買主の負担になっており、用途指定、転売禁止等の特約もある、公示価格を参考にすると、本件土地は一二三万円程度であり、これから右負担、特約等を考慮して相当の減額をすれば右予定価格となる、徳島市には随意契約によるべき場合について条例、規則上の定めはないが、買主は市街地形成上の観点からもそれにふさわしい者でなければならず、新聞や放送の事業はこれらの事業者に対しては株式の自由処分が禁ぜられていたり、放送法によってさまざまな規制が加えられているから公共的な事業であると考えられる、などの答弁をし、最終的に右案件は市議会の承認するところとなり、本件売買契約締結の運びとなった。

3  被告徳島新聞社は本件土地について所有権移転登記が経由された直後の昭和五六年三月三〇日、被告四国放送との間で、本件土地につき土地売買予約契約書と賃貸借契約書を取り交わした。前者は、両被告が本件売買契約の契約条項を前提として本件土地の二分の一の持分について売買予約をする、代金は被告徳島新聞社が徳島市に支払った本件土地代金である一七億六〇四四万七二四一円にプールなどの撤去に要する費用二六八一万円を加えた額の二分の一である八億九三六二万八六二〇円とし、被告四国放送は、これを売買契約保証金として被告徳島新聞社に支払い、持分二分の一の所有権移転登記は、本件売買契約に定める転売禁止期間を経過した昭和六五年一一月七日以降に行う、などを内容とするものであり、後者は、被告四国放送は本件土地を被告徳島新聞社から借り受けることとし、賃料は、交付済みの売買契約保証金に対して被告徳島新聞社が支払うべき利息相当額とする、本件土地の公租公課の二分の一は被告四国放送が負担する、などを内容とするものである。

4  その後、被告徳島新聞社と同四国放送は、鹿島建設株式会社ほか三社の共同企業体との間で建物の建築請負契約を締結することになったが、この段階に至り、株式会社電子計算センターが、新しい社屋を所有したいが独自に建築するだけの資金力がないので、建築予定の建物に入居したいとの希望を申し出で、同会社については、右両被告や徳島県及び徳島市をはじめ県内四市がそれぞれその株主になっており、両被告とも同会社と取引関係があり、入居させれば便利ではないかとの判断に基づき、同会社を入居させることとなり、更に両被告のメインバンクである被告阿波銀行が出張所を設けたい希望を申し出たので、これを受け容れ、このほか社員食堂の経営に当る別会社組織の株式会社ニュートクシマも入居させることが決まった。こうして、建築設計も具体化し、昭和五七年一二月二七日、両被告は右共同企業体と、代金額を四〇億〇八二〇万円、工事期間を昭和五八年一月一九日から同五九年九月三〇日とする建築請負契約を締結した。当初の予定より遅れて、昭和五九年一〇月三一日に完成した本件建物は地下一階、地上七階、延二万一一六二・二七平方メートルの規模のものであり、これを被告徳島新聞社と同四国放送とが、それぞれ専有する部分と共有する部分とに分かち、保有面積は前者が五九・一四パーセント、後者が四〇・八六パーセントとした。被告阿波銀行に対しては被告四国放送の専有部分から一一八・八三平方メートルが、株式会社電子計算センターに対しては両被告の専有部分から合計一〇一一・五〇平方メートルがそれぞれ賃貸された。徳島市に対してはそのころ株式会社電子計算センター及び被告阿波銀行に対して本件建物の一部を使用させる旨を通知した。専売公社の工場跡地には昭和五四年中に学校建物が完成し、翌年四月、徳島県立城ノ内高等学校が開校された。

5  本件売買契約中の、転売禁止特約を定める契約条項第一一条、用途指定特約を定める同第八条、使用開始期限特約を定める同第九条はいずれも用途指定と題する同第七条以下に置かれており、更に同第一〇条には、買主は指定期日である昭和五九年五月六日から五年間は指定用途に供すべきことを定め、指定期日、指定用途については同第一二条、同第一八条においてその変更の余地を認めている。

三  売買契約条件違反事由の有無

1  転売禁止特約違反の点について

被告徳島新聞社と同四国放送との間で取り交された売買予約書(乙第二号証)では、右被告両名間で本件土地の二分の一の持分につき売買予約をすることとされていることは前認定のとおりであるが、契約と同時に、被告四国放送からは被告徳島新聞社に対し売買契約保証金の名目で代金全額に相当する金員が支払われており、被告四国放送が大蔵大臣に提出した有価証券報告書(甲第四、第五号証、第九号証)中には、同被告が昭和五六年三月三〇日、本件土地の二分の一の持分を取得したと解される記載があることからすれば、右売買予約は実質的には売買と異なるところはないのであり、両被告間でもそのように認識されているものと推認できるのであって、右契約を売買予約としたのは本件売買契約には転売禁止の特約が付されているので、表面上、これに牴触することを避けようとしたために過ぎないとみることができる。しかしながら、前認定の本件売買契約成立に至る経過に照らすと、徳島市が本件土地を売却するについて特に配慮したことの一つは、本件土地は公共用地であったものであるから、これを買い受けた者が即座に転売して多額な利を博するような事態を生じさせないようにすること、二つは、本件土地は徳島市内の中心部にある一等地であるため、良好な市街地の形成という観点からこれにふさわしい用途に供されなければならないことであって、本件売買契約に転売禁止特約、用途指定特約等が付されたのは右のような趣旨からであったと解することができる。これを右売買予約についてみるに、被告徳島新聞社が被告四国放送に対して売り渡した本件土地の二分の一の持分の代金額は被告徳島新聞社が徳島市から買い受けた本件土地の代金及びプールなどの撤去費用の二分の一に相当するものであって、同被告は右売買予約によって何の利益を取得するわけではないのであり、また右売買予約は右被告両名が本件土地上に「新聞放送会館」の建物を共同所有するためその敷地取得に要した費用も共同で負担することを意図したものと解されるのであって、本件売買契約で予定されている本件土地の使用目的には何の変動も来さない。のみならず、右被告両名は徳島市に対しもともと共同で本件土地の買受け方の申込みをしたのであり、買受人を被告徳島新聞社のみとするよう求めたのは徳島市の方なのであって、これと本件土地が右両被告において徳島市内の別の場所に共同所有していた「新聞放送会館」に代わる建物を建築するための敷地に供するものであるという買受けの目的を併せれば、本件売買契約後、右両被告が前記のような売買予約をするということは、本件売買契約当時、その後に生ずる事態として徳島市が想定していた範囲を越えるほどのものではないということができる。

してみると、右売買予約は本件売買契約に付された転売禁止特約に違反するものではなく、徳島市はこれを理由に本件売買契約を解除し若しくは契約上留保された買戻権を行使することはできないというべきである。

2  用途指定特約違反の点について

被告徳島新聞社が自ら、或いは被告四国放送が、株式会社電子計算センター、株式会社阿波銀行に対して本件建物の一部を賃貸したことは前認定のとおりであるが、前認定のとおり、本件建物の建築面積に占める右賃貸面積の割合は僅少であり、右各会社は被告徳島新聞社の事業との関連性を有しないわけではない。本件売買契約の趣旨に照らすと、ここで禁止される用途変更とは、本件建物全体を観察したときこれが新聞放送会館としての実質を失うことをいうものと解するのが相当であって、右各会社に本件建物の一部を賃貸したことが用途変更に当たると解するのは困難であり、徳島市はこれを理由に本件売買契約を解除し、若しくは契約上留保された買戻権を行使することはできないというべきである。

3  使用開始期限特約違反の点について

前認定のとおり、本件建物の完成時期は本件売買契約で指定された期日より五か月余り遅れたが、本件建物のように大規模な建物の建築工事においては、請負業者選定の段階から多少の遅れが出ることは少なくないことであって、本件売買契約において工事の完成が遅れるときは事前に徳島市の書面による承認を得ることとしたのは手続の確実を期する意図を出ないものと解される。前認定のとおり、被告徳島新聞社及び同四国放送が業者との間で締結した建築請負契約においては本件建物は本件売買契約に定められた期日により後に完成することが予定されていたことからすれば、特約の趣旨が当初から尊重されなかったとみることもできないではないが、仮に被告徳島新聞社が徳島市に対し事前に書面でその承認を求めていたとすれば、徳島市においてこれを拒否したであろうとうかがわせる事情も見当たらない。まして、建物が完成した後の今日に至って、徳島市が右手続が履践されなかったことを理由に本件売買契約を解除し若しくは契約上留保された買戻権を行使し得るとはとうてい解することができない。

よって、徳島市が本件売買契約につき解除権を有し若しくは契約上留保された本件土地の買戻権を取得したことを前提とする原告らの請求は理由がないものというべきである。

第三  結び

以上の次第であって、甲事件の訴えのうち、被告徳島市長が被告徳島新聞社に対し本件土地につき売買契約の無効を理由として原状回復を求めることを怠っている事実の違法確認を求める部分、被告徳島新聞社が徳島市に対し本件土地につき本件登記の抹消登記手続をすべきことを求める部分、被告徳島新聞社及び同四国放送が徳島市に対し本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきことを求める部分並びに被告徳島新聞社、同山本潤造、同森田茂及び同四国放送が徳島市に対し金一四億〇四八六万円及びこれに対する昭和五五年一一月七日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべきことを求める部分、乙事件の訴えのうち、被告四国放送が徳島市に対し本件土地つき本件登記の抹消登記手続をすべきことを求める部分並びに被告阿波銀行が徳島市に対し本件建物から退去して本件土地を明け渡すべきことを求める部分はいずれも不適法な訴えであるからこれらを却下し、甲事件及び乙事件のその余の請求は理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 曽我大三郎 同 栂村明剛は転任のため署名押印できない。裁判長裁判官 大塚一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例